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【徹底解説】 Apple Search AdsとMMPのデータ乖離。今までとこれから

Apple Search Adsを検討、または実施をした経験がある方なら、誰もが一度はぶつかる壁。今回のトピックは、Apple Search AdsとMMP(トラッキングツール)のデータ乖離についてです。

先日の記事でもこの"データ乖離"について少し触れさせていただきましたが、結論、このデータ乖離の問題は、大きく改善される見込みとなっています。(2021年5月時点)

今回は、Apple Search Adsのデータ乖離がなぜ起きたのか、そしてどう改善されるのかについてお話させて頂きます。

1. データ乖離の背景

“データ乖離”とは、一つの同じ対象に関するデータが、計測する主体により、異なって表れる現象のことです。特に現在は、Facebook、Twitter、Googleなど、API連携ネットワーク(海外では、Self-Attributing Network, SANという名称が一般的)とMMPの間で現れています。

例えば、Apple Search Adsで計測された昨日のアプリインストール数が、Apple Search Ads管理画面では1,000と表示される一方、MMPの管理画面では500と表示されているのです。

なぜこのようなことが起こってしまうのか。要因を紐解く前に、MMPと広告ネットワーク間のアトリビューション(トラッキング)の仕組みについて、おさらいをしておきましょう。

一般的な広告ネットワークは、MMP側でアトリビューションの判定を行い、その結果を広告ネットワークに通知。広告ネットワークはその通知をベースに、管理画面にデータを表示します。その為、問題が起こらない限り、MMP管理画面で表示される数値と一致します。

一方、API連携ネットワークは、自らアトリビューションの判定を行います。その特徴から、海外では一般的に、セルフアトリビューションネットワーク(SAN)と呼ばれています。そして、API連携ネットワークは一般的な広告ネットワークとMMP間のアトリビューションプロセスとは異なります。

その違いを簡単に図形にて比較してみました。

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API連携ネットワークの場合、MMPのデータ上でもユーザーが最後に接触したのがAPI連携ネットワークであれば(ラストタッチ)、互いの数値は一致します。しかし、そうではない場合には数値の不一致が生じるのです。そして、Apple Search AdsもこのAPI連携ネットワークの一つでもあります。

ではここから、データ乖離の原因となる要因について見てみましょう

2. データ乖離の原因

1. ラストタッチ 【小】
2. 計測基準の違い 【小】
3. ダウンロード VS インストール 【小】
4. Limited Ad Tracking(LAT-ON)を有効にしたユーザー 【大】
5. 再ダウンロード VS リアトリビューション 【大】

2 - 1. ラストタッチ

前述した通り、アトリビューション判定において、API連携ネットワークは自社の広告での接触のみを対象にする反面、MMPは全ての広告ネットワークのタッチポイントを確認した上で、最後に接触した広告は誰かなのか、をベースに判定をします。

Facebook、Google、Twitterなど、API連携ネットワークで生じるほとんどのデータ乖離はこの判定が原因であり、個人的な経験と体感的には、10~20%程度のデータ乖離が生じています。

ただし、Apple Search Adsの場合は、この要因の影響は非常に少ないと考えられます。その理由としては、他の媒体の広告はコンテンツの利用中に広告が表示されますが、それに比べApple Search Adsの広告は新しいアプリを探して遊びたいというユーザーの動機があり、自らApp Storeに訪問し、検索をしているユーザーを対象に、検索キーワードに応じて表示される広告であるからです。

その行動心理の流れにより広告に反応(Click)したユーザーが、その後、App Storeを離れ、他の広告ネットワークが表示する同じアプリの広告に反応してインストールをする。そんなケースは現実的にそこまで多くはないでしょう。もちろん、シナリオとしてゼロではないですが、大きな原因ではないはずです。

2 - 2. 計測基準の違い

MMPの計測基準は広告ID(IDFA)である事に比べ、Apple Search Adsの場合はApple IDを計測基準にします。大きな違いとして言われているのは、一つのIDFAは一つのデバイスのみに繋がっていますが、Apple IDの場合は一つのApple IDに複数のデバイス(iPhone12, iPad, iPhone 10など)が繋がっています。ただ、こちらもデータ乖離の大きな原因ではありません。

2 - 3. ダウンロード VS インストール

App Search Ads側では、ユーザーがApp Storeでアプリのダウンロードしたベースで計測を行います。

一方、MMP側では、ダウンロード後、アプリを起動したことをベースに計測を行います。MMPはアプリに実装されたMMPのSDKからユーザーの行動をトラッキングする為、アプリが起動されないと、MMPのSDKも動かない仕組みです。

一般的なケースで、アプリは一瞬でダウンロードされるのでこれも大きな原因ではないと思いますが、容量が大きいアプリの場合や、通信環境が遅い場合、ダウンロードされる間にFacebookやTwitterなど、他のアプリを起動するといったケースも生じます。

そうして他の広告に接触した場合、最初に述べたラストタッチや、アプリをダウンロードした事を忘れて起動していない場合などで、データ乖離が生じます。ただ、これもそこまで大きい割合ではありません。

以上、説明させていただいた3つの要因は、データ乖離の要素として確かに存在はしますが、大きな原因ではないことがお分かりいただけたと思います。(3つを合わせ、体感では5~15%程度のデータ乖離が生じると見られます)

では、最も大きな原因について見てみましょう。

2 - 4. Limited Ad Tracking(追跡型広告の制限)を有効にしたユーザー(LAT-ONユーザー)

⚫︎ ASA: IDFA有無に関係なく、全ての計測が可能
⚫︎ MMP: IDFA有りの場合のみ、(ASAからの流入)計測が可能

ご存知のように、Limited Ad TrackingをONしたユーザーは、IDFA取得ができないような仕組みになっています。そのため、IDFAをベースにインストールを計測するMMP側としては、LAT-ONユーザーがどこから流入したのか知る術がなく、MMP上ではOragnicのユーザーとして判断するしかありませんでした。

ちなみに、このLAT-ONユーザー層(= IDFAが取得できないユーザー層)は、LATがリリースされた2016年の当時には約15%程度の数値でしたが、2020年には31.5%(*1)まで増加しています。
(*1. Source: https://www.singular.net/blog/limit-ad-tracking-privacy-checkup-in-2020/)

一方、Apple社は、Apple IDをベースに計測を行います。よって、LATのON/OFFを問わず計測をすることが可能です。しかも、この計測はユーザーの決済情報はもちろん、アプリをダウンロードする際の暗号化証明プロセスなども含め、非常に正確な情報です。ただし、LATをONと設定したユーザーの情報は第三者に提供できない為、ASA上には集計を行いますが、MMPには渡せません。これがASAとMMP間に生じるデータ乖離に大きな原因です

iOS14以降、ユーザーによる広告識別子(IDFA)の制御は、「LAT」ではなく、ATTとも連動する「AppからのTracking要求を許可」のON/OFFでの制御に変更されています。

2 - 5. データ乖離の要因 - 再ダウンロード VS リアトリビューション

⚫︎ ASA: 再ダウンロードとして計測。アプリを削除したユーザーが、ASA経由で再度ダウンロードしたら計測。
⚫︎ MMP: リアトリビューションとして計測。一定期間アプリを起動していないASA以外の経由でInstallしたユーザーが、ASA経由で再度アプリダウンロードし起動したら計測。

ASAはApple IDをベースに、アプリのダウンロード計測だけではなく、アプリの削除も記録しています。そして、アプリを削除したユーザーがASAで配信された広告からアプリをダウンロードした場合、再ダウンロードとしてカウントされます。

MMPは、再ダウンロードではなく、リアトリビューションという指標で計測をします。MMPの提供各社によって仕様は多少異なりますが、大まかな仕組みと条件は…

① ASA以外の経路からアプリをインストールしていたユーザーが、
② 一定期間アプリを起動していなかった後に、
③ ASAの検索結果からアプリを(再ダウンロードして)起動した場合、リアトリビューションとしてカウント

要するに、新規獲得を計測する部分においては、ASAは「ダウンロード」、MMPは「インストール(ダウンロード + 起動)」 と定義自体は異なりますが、そこまでずれる要素はないことがわかります。

ただ、「再ダウンロード」と「リアトリビューション」 は、定義やその中身も大きく異なる事からデータの乖離は必然的に発生することになります

3. データ乖離、これから

今年に入り、Apple社は新たな計測仕組みを投入しました。

⚫︎ 旧: iAd framework
⚫︎ 新: AdServices framework

上記で、共通的に出るframework(フレームワーク)とは、簡単にまとめると、アプリ開発における枠組みで、アプリの使用に必要なファイルをまとめたパッケージです。

なお、今までの計測は、iAd frameworkを介して、Apple Search Adsの計測を行っています。

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(* 技術的な詳細は上記のイメージと多少異なる部分がありますが、この説明での理解でも問題はないかと思います)

ポイントを整理すると…

① MMPのSDKが、IDFAを用いて、Apple Search Adsの計測記録をiAd Frameworkに要請
② iAd Frameworkが、結果を3つのパターンで回答

 ⚫︎ 計測がある場合
 ⚫︎ 計測がない場合
 ⚫︎ 返さない場合 (Limited Ad TrackingをONにした場合)

つまり、IDFAが計測のベースになる為、Limited Ad TrackingをONしたユーザーの場合は計測ができない。これがそもそもMMPとApple Search Ads間のデータ乖離を発生させていた大きな原因でした。

ところが、iAd Frameworkの代わりに、AdServices Frameworkをベースとする計測が新たに発表され、iOS14.3以降のアプリに対しては提供され始めました。

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大きな違いとして、従来がIDFAベースで計測を行ったことに比べ、新しい計測はToken(トークン)をベースに計測を行います。このTokenはAdServices Frameworkを実装したアプリであれば、必ずユニークに生成されます。

MMPは、このTokenをアプリから取得し、Appleが用意したAPIを通じて、Apple Search Adsの計測を要請します。そして、結果として返ってくる回答は、ATT(*)の結果に応じて2パターン存在します。(ATT: AppTrackingTransparency。ユーザーをトラッキングしたり、ユーザーのデバイスの広告識別子にアクセスしたりする際に必ずユーザーの許可を得る仕組み)

 ⚫︎ ATT許可の場合、オプトイン

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 ⚫︎ ATT不許可の場合、オプトアウト

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ATT不許可の場合には、Clickの時刻が返ってこないという差は存在しますが、基本的にはTokenを計測基準にすることで、ATTの許可状況に関わらず計測は可能になります

なお、新たなAdServices Frameworkの登場により、今後はデータ乖離が完全に無くなるのかというと、引続きデータ乖離は多少なり生じると考えられます。

その一方、今までのようにIDFAが取得できなかった時に、MMP側で測定が不可能(Organicに帰属)になるケースは完全に解消される為、データ乖離が大幅に減少する事になります。これはASAのパフォーマンスを評価するうえで、非常に前向きな進展なのではないでしょうか。

⚫︎ 今まで : IDFAベースで計測。LAT-ONユーザーは計測が不可。
⚫︎ これから:Tokenベースで計測。ATT許可状況(IDFA取得可否)に関わらず、計測が可能。

こちらのAdServices Frameworkを利用する新たな計測はiOS14.3以降のデバイスで適用されます。iOS14.2以下のデバイスにおいては、引き続き旧iAd Frameworkを用いて計測を行われます。

可能であれば、今回の記事で実際のデータを用いて、検証まで行いたいところでしたが、MMPのSDK更新、ユーザー側のアップデートなども含めまだ検証には早い段階ではあります。こちらは後日、続きとして実際のデータ検証もしていきたいと思います。

以上、MMPとApple Search Ads間のデータ乖離に関する、今までとこれからについて調べてみました。先日の記事でも書かせて頂いた通り、iOS14.5の変化に伴い不安な部分も多いかと思いますが、アプリマーケティングに対する方向性定めにおいて、一つのポジティブな参考資料になれたらと思います。


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