東大在学中の起業・M&Aを経て、UNICORNにジョインした“働く研究者“の信念 - 井上 碩
UNICORNで働く社員一人ひとりにフォーカスを当て、どんなキャリアを経て、何を信じて働いているのかをそれぞれの言葉で語ってもらう”Career Story”
今回登場するのは、UNICORNトップデータサイエンティスト・井上碩です。
東京大学在籍中、Mist Technologies株式会社を創業し、その後UNICORNの親会社であるアドウェイズとのM&Aを経てUNICORNにジョイン。現在は主に機械学習の開発・運用を主導し、サービスの構築を行っています。今回はそんな井上のこれまでのキャリアと今の思いを、彼自身の言葉で振り返ります。
"研究者”としてのこれまでとこれからを語る前に
はじめまして、UNICORNの井上と申します。
普段、自分のプロフィールを俯瞰して見ることは少ないのですが、こうして文面に起こすと、一体どんな仕事をしている人間なのか、少しわかり辛いかもしれないと感じます。良い機会なので改めて考えてみたのですが、大雑把に言えば、“研究者”と表現することが一番明瞭なのかもしれません。
小さな頃から研究者を夢見て大学を目指し、学部の4年間、修士課程の2年間、そして博士課程の3年間……合計9年間大学に通い、研究を行っていました。2009年に大学に入学したのですが、実は2年前に卒業したばかりです。
大学を卒業してUNICORNで今取り組んでいることとしては、機械学習の研究・開発・運用。ざっくり言えば、「どのくらいの金額でどの広告を入札すれば良いのか」を決める仕事です。もちろん、それらを決めるためにさまざまなプロセスがあるのですが、それらの開発をしながら調整も行っています。
前置きが長くなりましたが、今回はそんな自分が大学時代にどのような研究をしていたのか、大学在籍期間にどんな会社を立ち上げ、何の開発を行っていたのか。そして、なぜ今UNICORNで働いているのかなど、過去と今を振り返っていきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
今も関わる東京大学での研究内容
前段でもお話ししましたが、私は小さな頃から漠然と研究者になりたかったのです。その当時は研究テーマはあまり考えていなかったのですが、漠然と「研究者になりたい」と思っており、それであれば東京大学を目指すべきだと高校2年生の頃に考えたのでした。
勉強の甲斐があってか、無事大学へ入学。学び始めたことは、計測と制御の専門でした。その後、授業と並行をしながら、“フェーズドアレイスピーカー”なるものを研究し始めます。これは複数のスピーカーを並べたものなのですが、ただのスピーカーではなく"位相"(=フェーズ)の制御が可能なものです。
例えば現在、前からも後ろからも音に囲まれるような状況を作り出す“サラウンドシステム”は、6つのスピーカーを伴う“5.1ch”が主流なのですが、私の研究では最大で4000個のスピーカーを使用していました。しかもそれぞれ一つひとつを、厳密にコントロールすることができるのです。8000次元に及ぶ自由度の高い出力系をどう最適化して制御するか、というのが私の専門でした。
そんな“化け物”みたいなサラウンドシステムで、一体どのようなことが可能になるのか。例をあげるとこの動画のように、スピーカーから発する超音波を用い、物を浮かせることが可能となります。下の動画で紹介している研究では、波長より大きな物体を安定に浮揚させる計算論を初めて提案し実証しました。
これを応用すればそう遠くない未来、電子部品のマウンターなどさまざまな製造の現場などで活用されるようになるかもしれません。より未来の話で言えば、音波ではなく電波を用いれば、宇宙で活用することも原理的には可能です。SF映画で出てくるトラクタービームや、はやぶさ2で話題になったサンプル回収を非接触で行うことも、不可能な話ではないと考えています。
もう一つの例は、非接触の触覚提示です。昨今はwithコロナの世界の中、日常生活において“触りたくないボタン”などもあるかと思います。特に医療機関の中では、事態はさらに深刻かもしれません。そんな中、超音波フェーズドアレイを用いれば、”触っていないけれど、触った感覚”を得ることができるのです。
衛生上の観点だけでなく、UXとしても空間でより複雑なフィードバックを得ることが期待できます。また、3D CADの作成などで応用が進めばとも思っています。
このような研究に約6年間取り組み、卒業後も自分が携わる研究を進めるなど、現在も研究員という形で大学に関わっています。UNICORNで取り組んでいる業務とは直接関係の無い研究だと思われるかもしれませんが、今も自分に影響を与え続けてくれています。
大学在籍時、創業した会社のM&Aを経てUNICORNへ
2016年、大学院1年生の頃に、前述した研究とは別のベクトルで会社を立ち上げることを決めました。大学の同級生の友人と二人で立ち上げたその会社は、Mist Technologies株式会社。P2Pシステムの開発や、ビデオ配信のプレイヤーなどを提供していた会社です。
webRTCという技術を用いれば、P2Pをブラウザ上で取り行える仕組みが作れるかもしれない。会社を起こすキッカケとなったのはこのアイデアでした。
簡単に言えば、動画を高速に配信することができ、なおかつ運用コストも安くなるということ。しかも応用をすれば、これまでスタンダードだった配信ネットワークの“CDN”から、自分たちが開発した“P2P”にさまざまなネットワークが置き変わるかもしれないと考えたのです。
ただ、その頃はCDNの価格競争が大変激しくなった時代でもあり、また、スタンダードなものから新しい仕組みに移行させるものとしてはこのシステム自体の引き金は弱く、結果的にこのビジネスモデルは成り立ちませんでした。いくつかのテレビ局などに利用して頂くなど、多少の注目はされたのですが、自分たちが予想していたほどの“劇的な展開”とはならなかったのです。
そのため、一旦P2Pサービスは諦め、モバイル用の動画プレイヤーを開発することに。ユーザーにストレスなく動画を見せる“インライン再生”……いわば、ページの中でスクロールをしながら、動画が出てくる、という仕組みの開発を始めました。今では当たり前のUIですが、当時はOSの制約やパフォーマンスの理由から実装は難しく、Javascriptでのデコード等を駆使した新しいものでした。この技術を横展開して、ブラウザ上の360動画や多数の動画の軽量な同時再生など、(当時としては)ユニークな製品をいくつも開発していきました。
その結果、この技術がUNICORNの親会社であるアドウェイズの目に止まり、UNICORNの動画配信に組み込むという形でM&Aを経て、ジョインをすることになったのです。
ちなみにお伝えしておくと、私たちのサービスを見つけてくれたのは、UNICORNのCEOのやましょーさん。初めて会った時の印象は……「なんかチャラそうな人だな」と思ったことを覚えています。
結果を出すために、研究者として何ができるのか
UNICORNにジョインして約4年。機械学習を用いた広告という分野は、学生時代に取り組んでいた研究とは全く違う分野であり、自分の畑ではない業種。そのため、知人からはよくこの質問を聞かれます。
「なぜ今の仕事を続けているのか」と。
前提に、Googleなどが軌道に乗せた“機械学習”という仕組みは「広告をいかに効率よく展開するか?」という課題を背景に、爆発したようなもの。
ゆえに、UNICORNはその“機械学習×広告”という、真正面の問題に取り組める素地が整っており「あとは数字を出せば良い」という、大変わかりやすい構図だったのです。そして、元々興味のあった“機械学習”を研究できるという点においても、とても良いフィールドだなと考えたのでした。
ただ、自分が考えていたよりも、なかなか数字は伸びていきません。
とはいえ、アドウェイズ及びUNICORNには、会社をM&Aしてもらったこともあり、そのリターンはしっかり返していきたい。そしてなにより中途半端な数字を出し続けることは悔しい。時間が経つにつれ、研究者として結果を出すために何をすべきか考えるようになっていくようになっていきます。
科学のひとつのプロセスに、既存のものと新しいものを比較する際の"検定"と呼ばれる手続きがあります。単に作っただけではなく、本当に良くなったのかを検証することが必要であり、どんな事柄でもそれを曖昧にしては成長スピードに陰りが出てくるのです。UNICORNは当時、その検証がうまくできていませんでした。
例えば、効果が良かった広告に対し、本当に良くなったのか、偶然ではないのかといった検証をしなければ、次回に繋がることはないということ。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、細かくデータを整理するにはそれ相応の時間も必要となってきます。ただ、その検証を入れていくことで良い例だけを残せるようになり、UNICORNの機械学習の精度も上がっていったのでした。
"働く研究者”として信念をもつということ
時間が経ったからこそ言えるのですが、UNICORNにジョインした2016年当時は「自分の興味のある研究だけをし続けたい」と考えていました。しかし現在は、自分よりも“組織”を信じており、組織のために働き、研究をし続けたいと思っています。
きちんとした倫理観を市場に対して貫く姿勢、ユーザーファーストの広告配信……仮にUNICORNが売上や利益を追求するだけの会社であれば、このような考えを持っていないでしょう。
要するにUNICORNで働くメンバーは、判断軸に信念を持っているのです。入社して1年目の時は気付いていなかったのですが、そのことに気付いた今は、自分も信念を持って組織のために結果を出したいと考えるようになったのでした。
なおUNICORNには、当初は研究者としてジョインをしています。冒頭でお伝えした通り、自分の肩書きはデータサイエンティストであり、“研究者”と表現することが一番明瞭だとも思います。
しかしこの数年間、UNICORNのメンバーと一緒に仕事に取り組み、研究をし続けてきたことにより、自分はただの研究者ではなく、“働く研究者”として成長していると感じています。
この成長はUNICORNで働き続けていないと得られなかったものであり、そして今後も継続して成長をしていきたいとも思っております。
今後のUNICORNに、ぜひご期待ください。